テンカス

新しい政治の担い手となった武士の女性は、その社会的地位こそ確かに向上したものの、鎌倉時代には認められていた相続権を失うなど、次第に主体性を喪失していった。それに比べると、庶民の女性の生きざまは、庶民階級全体の勃興と相まって、はるかにたくましく清新な息吹きに満ちている。 そんな生きざまは「花子」「内沙汰」などの狂言の中にうかがうことができる。「花子」では、夫の浮気を見ぶってとっちめる妻が描かれており、「内沙汰」では、訴訟を起こそうとする夫に対し、近ごろに裁判はあてにならぬから、自分の前で弁論の実演をしてみろと、特訓を課す妻が登場するといったぐあいである。当時の庶民女性は、女権伸張の現代とほとんど変わりのない強さと積極性を、すでに備えていたかのようである。 庶民の女性がこのように男と対等に近い関係で、主体的に生きることができたのは、庶民世界に育まれていた自由調達な精神の土壌によるところが大きい。彼女たちは、男ともども自らの生活を支える主要な働き手であったのだ。